家には一銭の金もなく、母親は肺病だった。娘の葉子は何日も飯を食わず、水の引くようにみるみる痩せて、歩く元気もなかったが、母親と相談して夜の町へ十七歳の若さを売りに行くことにした。母親も昔そんな経験があったのだ。
夜、葉子は町角でおずおずと袖を引いたが、男は皆逃げ出した。それ程葉子は醜かったのだ。おまけに乾いた古雑巾のように薄汚い服装をしていた。葉子はすごすごと帰って水を飲み、母親にそのことを話すと、
「こちらから袖を引くよりも、男がからかいに来たら素人らしくいやですとモジモジしていれば、案外ひっ掛るかも知れないよ」
「いやです――と言ったらいいの……?」
翌る夜、葉子はまた出掛けた。そしてぐったりして帰って来た手には三枚の紙幣を握っていた。が、調べてみると、三枚とも証紙の貼ってない旧円だった。葉子はわっと泣き出した。
次の夜また出掛けた。男がからかいに来ると、葉子は、
「いやです、いやです、旧円はいやです」
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