この望遠鏡製作所に勤めて、もう半年あまり経ち、飽性(あきしやう)である僕の性質を知つてゐる友人連は、あいつにしては珍らしい、あの朝寝坊がきちん/\と朝は七時に起き、夕方までの勤めを怠りなくはたして益々愉快さうである、加(おま)けに勤めを口実にして俺達飲仲間からはすつかり遠ざかつて、まるで孤独の生活を繰返してゐるが、好くもあんなに辛抱が出来たものだ――などゝ不思議がり、若しかすると、あいつ秘かに恋人でも出来て結婚の準備でもしてゐるのかも知れない――そんな噂もあるさうだが――そんなことは何うでも構はない。
兎も角僕は、この勤めは至極愉快だ。
僕は、Girl shy といふ綽名を持つてゐるが、近頃思ひ返して見ると僕のそれは益々奇道に反れて――これは何うも、変質者と称んだ方が適当かも知れない。恥しい話だ。
こんな秘かな享楽は、他言はしないことにしよう。
二
製作所の屋上に展望室と称する一部屋があつて、これが僕の仕事場である。僕は此処で終日既成品の試験をするために、次々の眼鏡を取りあげて四囲の景色を眺めてゐるわけである。楽器製作所の試音係と同様の立場である。四畳半程の広さをもつた展望室には、僕を長として
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